世論調査の信頼性|世論調査は本当に「世論」を反映している!?

ニュースで報じられる内閣支持率や選挙の情勢調査。「世論調査によると…」という言葉を聞くと、「この数字はみんなの意見を本当に反映しているの?」「自分の周りではそんな意見の人はいないけど…」と疑問に思ったことはありませんか? 特に、選挙予測が外れたり、自分の実感と調査結果がかけ離れていたりすると、その信頼性について疑いたくなります。
この記事では、そんな世論調査の疑問を解決するために、その仕組みや気をつけるべきポイントなどを学んでいきたいと思います。

目次

そもそも世論調査とは?|その仕組みについて

世論調査の信頼性について考える前に、まずはその基本的な仕組みを理解しておくことが重要です。なぜ、全国民に聞かなくても「世論」がわかるのでしょうか。

世論調査の目的は社会の「縮図」を作ること

世論調査の目的は、対象となる集団(例えば、日本の有権者全体)の意見や考え方の傾向を、科学的な手法に基づいて把握することです。
もちろん、有権者全員に意見を聞く「全数調査」は、時間もコストもかかり現実的ではありません。そこで、集団全体の中から一部の人を偏りなく選び出し(抽出し)、その人たちの意見を聞くことで、全体の傾向を推測する「標本調査」という方法が用いられます。
この選び出された「一部の人(標本)」が、社会全体の「縮図」となるように設計されているのが、世論調査の最大のポイントです。

調査の根幹をなす「無作為抽出(ランダムサンプリング)」

「縮図」を正確に作るために最も重要なのが、「無作為抽出(ランダムサンプリング)」という手法です。
これは、対象となる集団の全ての人が「同じ確率で選ばれる」ように、くじ引きのような方法で調査対象者を選ぶやり方です。例えば、選挙人名簿や住民基本台帳などを基に、乱数を使って対象者を抽出します。こうすることで、年齢、性別、地域などの偏りをなくし、標本が母集団(この場合は有権者全体)の構成比に近くなるようにします。
この統計学的な根拠があるからこそ、一部の人への調査でも全体の意見を高い精度で推測できるのです。

なぜ?|世論調査が「当たらない」「信頼できない」と言われる5つの理由

科学的な手法に基づいているはずの世論調査ですが、それでも「当たらない」「信頼できない」という声が上がるのはなぜでしょうか。そこには、無視できないいくつかの「誤差」や「バイアス(偏り)」が存在するからです。

理由1:調査方法の偏り(特に固定電話への依存)

現在、多くの報道機関が行う世論調査で主流となっているのが「RDD方式(Random Digit Dialing)」です。これは、コンピューターで無作為に電話番号を作成して電話をかける方法で、電話帳に載っていない番号にもかけられる利点があります。しかし、近年は固定電話を持たない若者世帯が急増しており、調査対象が中高年層に偏りがちになるという大きな課題があります。携帯電話へのRDD調査も増えていますが、それでもなお、ライフスタイルの違いから若者世代の声が十分に反映されにくい「カバレッジ誤差」が生じる一因となっています。

理由2:低い回収率と「答えてくれない人」の存在

調査を依頼しても、全員が協力してくれるわけではありません。近年の世論調査では、回収率(協力してくれた人の割合)が50%を下回ることも珍しくありません。問題なのは、調査に「協力してくれる人」と「協力してくれない人」の間に、政治への関心度や支持政党などに系統的な違いがある場合です。例えば、政治への関心が高い人ほど調査に協力しやすい傾向があれば、結果は「政治関心層」の意見に偏ってしまいます。これを「無回答バイアス」と呼び、信頼性を揺るがす大きな要因です。

無回答バイアス

アンケート調査において、回答しなかった人や途中で回答をやめた人がいることによって、データの正確性が損なわれ、結果に偏りが生じること

理由3:質問の聞き方や順番による印象操作

「〇〇政策について、賛成ですか、反対ですか」と聞くのと、「〇〇という問題が指摘されている△△政策について、賛成ですか、反対ですか」と聞くのでは、受ける印象が大きく変わり、回答に影響が出ることがあります。このように、質問の言葉選び(ワーディング)や質問の順番によって、回答が特定の方向に誘導されてしまう可能性があり、これを「測定誤差」と言います。意図的でなくとも、作成者の価値観が反映されてしまう危険性もはらんでいます。

理由4:本音を言わない「隠れ支持者」の存在

特に選挙予測で問題になるのが、自分の支持政党を正直に答えない「隠れ支持者(シャイ・トランプ現象などが有名)」の存在です。特定の政党を支持していると答えにくい社会的な雰囲気がある場合、調査員に対して本音とは違う回答をしたり、「わからない」「答えない」と回答したりする人が一定数存在します。この層の動向を読み誤ると、事前の予測と実際の結果が大きく乖離する原因となります。

理由5:避けられない「標本誤差」

無作為抽出を行っても、結果には必ず統計上の誤差が生じます。これが「標本誤差」です。ニュースで「支持率40%、標本誤差は±3%」などと報じられるのがこれにあたります。これは「同じ調査を100回行ったら、95回はその結果が37%~43%の範囲に収まりますよ」という意味です。つまり、調査結果の数字は「点」ではなく、ある程度の「幅」を持って解釈する必要があるのです。この誤差の存在を知らないと、わずかな数字の変動に過剰に反応してしまいます。

世論調査の見方|信頼できる世論調査を見抜くための3つのチェックポイント

では、私たちは世論調査の結果をどのように見れば良いのでしょうか。信頼性を判断するための3つのポイントをご紹介します。

ポイント1:調査主体と調査方法が明記されているか

まず、誰が(報道機関名、調査会社名)、いつどのような方法で(電話、インターネットなど)、誰を対象に(全国の18歳以上の男女など)、何人から回答を得たのかが、きちんと明記されているかを確認しましょう。これらの情報が曖昧な調査は、信頼性が低い可能性があります。

ポイント2:回収率や標本誤差は公開されているか

信頼できる調査機関は、調査の限界を示すデータも同時に公開します。特に、前述した「回収率」や「標本誤差」が明記されているかは重要な判断材料です。これらの情報がない、あるいは極端に回収率が低い調査は、結果を慎重に受け止める必要があります。

ポイント3:質問文が公開されているか

可能であれば、実際にどのような質問がされたのか、質問文そのものを確認してみましょう。報道機関によっては、ウェブサイトなどで質問文を公開している場合があります。誘導的な聞き方になっていないか、選択肢は適切かなどを自分の目で確かめることで、より深く調査結果を吟味できます。

まとめ

ここまで見てきたように、世論調査には様々なバイアスや誤差が入り込む可能性があり、決して万能なツールではありません。「当たらない」と言われる背景には、社会構造の変化や人々の意識の変化が複雑に絡み合っています。

世論調査は「世論」を反映しているか、に対する答えは、
適切に実施された調査であれば、ある程度の誤差はあるけれども、概ね世論を反映している
ということでしょうか。

そのうえで、特に注意したいことは、特定の意図を持って操作された調査結果、あるいは偏った対象者の結果などを「世論」として公表していることはないか、ということです。

調査の技法や問題点等を知っていれば、それを悪用して意図した回答に誘導するような質問を作ったり、偏ったサンプリングの回答を集めて「世論」「多数派」としたりすることができるのです。

世論調査が、世論を反映しているか否かは、公正・中立な立場で正当な方法(適切な方法)によって調査を実施しているかどうかにかかっているのです。
ただし、それでも誤差が生じることを完全に防ぐことはできない、ということを知ったうえで結果を見ることが必要なのです。
結果を鵜呑みにしないこと、妄信しないことです。

※内容に誤り等ありましたら、ご指摘いただけると幸いです。必要に応じて修正等いたします。

・2025年09月10日 第01稿

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